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2010年8月

2010年8月28日 (土)

小泉八雲「ろくろ首」その5

回竜が小屋にもどってみると、
傷だらけの首を胴体にくっつけた四人が
身をよせあってふるえていました。
回竜を見るや、
「それ、坊主じゃ。ちくしょう!ちくしょう!」
くちぐちにわめくと、あわてて山の奥へ逃げていきました。
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いつのまにか、東の空が明るくしらみはじめています。
なんという一夜であったことか。。
そのうえ、袖の首は、ぶらさがったままです。
化け物のふしぎな力は、夜のあいだだけのはずなのに、
この首は、朝になってもいっこうに離れません。
回竜の怪力であっても、その口をこじあけることができないのです。
がっしりと食らいついて白目をむいています。

回竜はがんこな首をつくづくと眺め、
「いやはや、化け物の首とは。。。
とんだ旅のみやげが、できてしまったわい」
と言うと、朝日にむかって、からからと大笑いしました。
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こうして回竜は、袖の首をぶらぶら、ぶらぶらさせながら、
ふたたび修行の旅を続けるため
ゆるゆると山をおりていきました。
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えっ、首はどうなったかって?
旅の途中、追いはぎに ころもごと、くれてやったそうですよ。
その追いはぎ、しばらくはそのころもで、人々を
おどかしていたそうですが、やはりたたりが恐ろしくなって
化け物たちの小屋をさがしあて、そこで首を供養をして、
塚をたてたのだそうです。
でも、とうとう胴体は見つからなかったとか。
ですから、ちゃんと成仏してくれたかどうか。。。。
今でもだれにもわからないのですよ。

さあ、おしまい。とっぴんぱらりのぷぅ。

はあぁぁぁ、ようやく、終わりました。
長いお話、読んでくださってありがとうございました。

それにしても、この回竜、強いですねぇ。
こんなお話ものこっているのですよ。
化け物退治の僧として、諏訪の国では
お殿様から、歓待され、ご褒美までたまわったとか。
回竜の勇気は、人々の尊敬の的だったようです。

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小泉八雲「ろくろ首」その4

回竜は、とっさに若木をひっこぬき身構えると、
かかってくる五つの首を 次々と打ちすえました。
それでも首たちは蛾のように回竜をおそってきます。
打ちすえては払い、打ちすえては払い。。。。
すぐれたさむらいだった回竜の腕に 首たちはいつしか
泥と血にまみれていました。
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しかし、あるじの首だけは、どんなに打ちすえてもひるみません。
なおもなおも 必死で飛びかかってきます。
しまいにとうとう、回竜の左の袖に むんずと食らつきました。
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「しつこいやつめ!」
回竜はまげを引っつかむと、さんざんに打って打って、打ちすえました。
それでも、首は離れません。
そのうち「ぬぐぐぐ」とひと声。
うめき声をあげたかと思うとぐったり静かになりました。
「ついに死んだか。。。」

ふと、まわりを見ると他の四つの首は姿をけしています。
(つづく)
 

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2010年8月20日 (金)

小泉八雲「ろくろ首」その3

回竜がひたすら経をとなえてからどのくらいたったでしょう。
のどが渇いてきました。裏庭にかけひがあるかもしれません。
回竜はそうっとふすまを開けました。
この部屋では家のものたちが寝ているはずでした。
ところが、回竜の目にとびこんだのは寝ている五人の胴体だけでした。
なんと、五人が五人とも首がないのです。
「大変だ!人殺しだ!」
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しかし、人殺しにしてはおかしいのです。
あたりには 一滴の血もありません。
「ははぁ」回竜はうなづきました。以前読んだ中国の古い書物のことを
思い出したのです。
「こいつらは、ろくろ首という化け物にちがいない」
書物には、化け物の首が離れているすきに、胴体を別の場所に
動かしてしまえば、離れた首は二度と元へはもどれない。
とありました。
「さっそく、ためしてやる!」
回竜は肝の太い男です。あるじの男の足をつかむと、
ずるずる、ずるずる裏庭へ引きずっていきました。
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草むらに胴体をかくすと、木陰からこっそりあたりを見回しました。
と。。。ああ、いました、いました。
五つの首が、ひらひらと宙に舞っています。
木立や地面の虫を見つけては、むしゃむしゃ食べながら、
おしゃべりしています。
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あるじの男の首が言いました。
「あの坊主め、よく太っているのう。さぞ、うまかろう。
はやいところ食いたいものじゃ。
しかし、余計なことに経なぞ読みおる。
そのあいだは近寄れぬわい。」
すると、女の首が言いました。
「なぁに、もうそろそろ眠っていましょうぞ。
あたしが、ちゃっと見てきましょう」
ひらりと飛んでいくと、またたくまに息せききってもどってきました。
「ぼ、坊主は部屋にはおりませぬ。それにあるじの胴体も
見当たりませぬ。あの坊主の仕業にちがいありますまい。」
この知らせを聞くと、あるじの男はかっと、目を見開きました。
「なんだと!からだを動かされたとあっては、もう元にはもどれぬ!
わしは、死なねばならぬ。こうなったからには、死ぬ前にあいつを
八つ裂きにしてくれりょう。むさぼり食ってやる!」
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うなり声をあげたとき、
「やや、坊主め、あそこに隠れておる!」
言うよりはやく、あるじの首は四つの首をしたがえて
回竜におそいかかりました。
(つづく)
昔描いた絵が気に入らず、仕事のあいまに、描きなおしていたら、すっかりアップが
おくれてしまいました。読んでくださっているかたには
お待たせして、申し訳ないです。
次回はようやく、最終回です。回竜の活躍をお楽しみに!のんびり、待っていてくださいませ。

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2010年8月11日 (水)

小泉八雲「ろくろ首」その2

男に案内されて、小屋にはいると、囲炉裏をかこんで
三人の男とひとりの女がおりました。
回竜を見ると、みんな ていねいな挨拶をしました。
その形が、とても美しかったので、はてと、回竜は思いました。
「こんな山奥で、これだけの礼儀を見るとは
不思議なことだ。
このものたち、もとからのきこりではあるまい。
かつては、高い身分であったのではないか」
たずねてみると、なるほど、そのとおり。
あるじの男は、昔は大名に仕えていたものの、お酒や遊びで、
身をもちくずし、そのため、家はつぶされ、家族も失い、
多くの家来たちも不幸にしてしまったのだといいます。
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「しかし、今は心をいれかえております。
のこった家来たちと、力をあわせ、力のおよぶかぎり、
不幸せな人を助けて、罪をつぐなおうと考えているしだい。。」
男のりっぱな覚悟を聞いて、回竜は嬉しくなりました。
「本心に立ち返られたのですな。この上は、どうかして良い運を
招いてあげたいものじゃ。今宵はそなたのために経をとなえましょう」
みんなにおやすみの挨拶をすませると、、
床の仕度のされたとなりの部屋で、回竜は
さっそく、経をとなえはじめました。
ささやかな灯りのもと、心をこめて祈ります。
空には、雲ひとつなく、月がさえざえとした美しい夜でした。
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(つづく)

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2010年8月 7日 (土)

小泉八雲「ろくろ首」その1

連日の猛暑でぐったりですね。
今回はそんなからだを冷やしていただけますよう、怪談をお送りします。
小泉八雲の「ろくろ首」。有名なお話ですが、もういちど楽しんでくださいませ。

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むかし、回竜(かいりゅう)という僧がおりました。
目は大きくするどく、からだも大きくがんじょうで、いかにも力がありそうです。
それもそのはず、回竜は以前さむらいだったのです。
いくさでたくさんの手柄をたてました。
しかし、仕えていた殿様の家がほろびてしまうと、
さむらいとして生きることをやめ、頭をそって、僧になりました。
そして修行をしながら、山から谷へ 谷から山へと旅をしておりました。

そんなある日のことです。
山のなかで、とっぷり日が暮れてしまいました。
夜中、歩きとおしたところで人里まではまだまだあります。
「今日はひと晩 星空の下で明かさなくてはなるまい」
覚悟をした回竜は、道端の草むらに ごろりと からだを横たえました。
回竜は不自由を喜んでむかえる心がけをもっていて、
松の根っこでさえりっぱな枕として、眠ることができるのです。

まもなくして、道をひとりの男がやってみました。
片手に斧をぶらさげ、たくさんの薪を背負っています。
男は回竜を見ると、驚いたようすで話しかけました。
「お坊様、こんなところでおひとりで寝ておいでとは。。
あぶのうございます。このあたりは、たちの悪い化け物が
うようよしております。恐ろしくはないのですか?」
「これ、おやじ」回竜は機嫌よく答えました。
「心配はいらぬ。わしは、化け物なぞ、こわくはないのだ。
それに、野宿も修行のうちじゃ」
2
しかし、男は、わざわざあぶない目に会うようなことはなさらない
で、近くの自分の家に泊まってくれ、としきりに進めます。
「食べ物といってもさしあげられるものはありませんが、
屋根だけはございます。どうぞ、どうぞ。」
男の親切なようすが気に入った回竜は、快く申し出を受けることに
しました。
男のあとをついて、細い険しい道をゆくと、
しばらくして、草ぶきの小屋が一軒ありました。
(つづく)

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