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2009年12月 3日 (木)

島根の伝説「濡れ女と赤ん坊」その3

そのころ 家では さむらいの妻が
針仕事をしながら 夫の帰りを 待っていました。
と、奥から、かたかたと 物音が しました。
「はて?」ふしぎに思って、障子をあけて のぞきますと、
床の間の刀が ゆれています。
代々家に伝わる名刀で さむらいが 命より
大事にしているものです。
「もしや。夫の身に何か。。」
31
妻は 不安でいっぱいになって 外へ出ようと 戸を 開けた
そのときです。
刀は、ふわりと浮いて ひとりで 鞘から ぬけでました。
そして、戸口から  飛び出しました。
妻は あわてて 刀のあとを 追います。
刀は 海岸へむかって 矢のように 空を 飛んでゆきます。

海岸では さむらいが 岩の重さに 耐えかねて
とうとう うずくまってしまったところでした。
「もはや。これまで」
目を閉じたさむらいの耳に 突然 どおおおと 波のうねりが
聞こえ、続いて われんばかりの叫び声が 響きました。
と、「ばん!」と音がして、急に からだが 軽くなりました。
腕にはりついていた岩が はじけたのです。
驚いて目を開け、ふりむけば、なんと、牛鬼が 倒れています。
背中から、ぬれぬれと 赤いものが、突き出ています。
刀のきっさきでした。
32
「助かった。。」
さむらいが よろよろと立ち上がりかけとき、
足元に ぱらぱらと ちらばる 白いものを 見つけました。
見回せば、 小さなしゃれこうべが ころがっています。
はじけた岩が 骨になったのでしょうか。
「岩の赤ん坊か。どんなわけが あったのであろう」
さむらいは、つぶやくと、手を合わせました。

むこう 松林から 妻が かけてきます。
「おまえさま!よくぞ、ご無事で」
妻は さむらいに すがりつきました。
「どうやら、ご先祖さまが 守ってくださったようだ」
さむらいは、 牛鬼から、ぐいと 刀を ひきぬきました。
すると、牛鬼のからだは、たちまち 砂になって
波が さらってゆきました。

こうして 命拾いした さむらいは、刀を たんねんに
清めたあと、小さなしゃれこうべを 寺にあずけ
ねんごろに とむらったといいます。

そののち、 牛鬼を 見たという人は おりません。
33 (おわり)

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コメント

ぷりんさんの絵と、ぴったり合ったお話で
とっても楽しめました!!

今、日本の伝説について勉強中ですがbook
なかなか理詰めでは、納得できない部分が多いのが
日本の伝説ですよね。
それぞれ都合のいい部分だけが、強調されたり歪曲されたり、
だからこそ、おもしろい!
だからこそ、勝手に想像できる!
この、濡れ女と赤ん坊も、
“魚を恵んでもらったのに、なぜ侍を襲うの?”
となりますが、そこも勝手に解釈できて楽しいbleah

お忙しいと思いますが、
次回作も期待してしまいますfuji

投稿: せりなずな | 2009年12月 3日 (木) 08時49分

cloverせりなずな様
「いったい何の恨みが?」
悪いことをひとつもしていないのに、
たたってくる。ふしぎさ。typhoon
もののけに出会ってしまうのは、
単純に、運が悪かったのかもしれません(笑)
このお話も各地でいろいろ。どれにしようか?
結局、ラストは創作。。。flair
子どもと自分も夫に殺された妻の恨み??
かも??wobbly

投稿: ぷりん | 2009年12月 3日 (木) 16時15分

こんばんは。
私も、「何故このお侍が牛鬼と出会わなければならないのか」という理不尽さを感じました。
自縛霊という感じなんでしょうかねshock

伝説はせりなずなさんが仰るように、いろいろな解釈ができてたのしいです。

最後の絵に、先生の優しさが表れているような気がしましたbottle

投稿: aoba | 2009年12月 3日 (木) 18時55分

意外な展開で,読みとまったく違いました。
大きなチカラが働いて、主人公が驚く。
主人公は、私たちなのだと思いハラハラするのですね。

どの絵も光が効果的に使われ、お話に命を与えていますね。
この暗さがいいですね。

投稿: アルキメデス | 2009年12月 3日 (木) 20時48分

snailaobaさま
そうね。現世の中の「とある場所」が
異界とつながっていたりする。night
そこにたまたま、通りかかってしまうと、
出会ってしまうのでしょうね。toilet

ラストは、赤ん坊が、ちょっと哀れであったので、
とむらって、成仏してもらいました。bearing

投稿: ぷりん | 2009年12月 4日 (金) 07時31分

happy02eyeアルキメデス

アルキメデスさんは、どんな結末を
予想されていたのでしょう。
聞きたいなぁ。ear

人の力など てんで、およばない
世界があって、ときどきその世界の住人
たちに私たちは、何か「警告」されて
いるような気がします。bell

こわいお話は、光と影をたくさん
使えておもしろいです。!
とくに夜は、絵にしやすい。


投稿: ぷりん | 2009年12月 4日 (金) 07時41分

ぷりん様
今日はお疲れ様でしたshine
伝説、面白いですね!
あこや姫も良いお話ですが、
私はこちら系のお話が大好きです。(笑)
伝説は、全く不勉強で昔話のみでしたが、
ぷりんさんのおかげでいろいろ勉強してみたいと
思っています。( ^ω^ )


投稿: | 2009年12月13日 (日) 20時21分

cherry母さま
勉強会、終日で疲れましたね~
happy02ブログは再話の実験にもってこいの
ツール!
たくさん、書いているうち、私は
慣れてきましたよ。happy01
母さまも、やってみるといいのに~scissors
私は歴史が好きなので、「伝説」も好き!
「ふたつの赤い月」は、好きに使ってね。
語ってみたらそのときの様子を
教えてくださいな。ear

投稿: ぷりん | 2009年12月14日 (月) 07時48分

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